台湾で友人に会い、モロッコの砂漠を歩く ①東京~台北

一緒に逃げよう。ルートは決めてある。カサブランカに白い家を用意したの、そこに二人で

 

プリンセス・プリンシパル』第3話

 

 藤原薬子から寝物語で天竺の話を聞いた高丘親王、祖母の家に飾られたブロントサウルスの皮からパタゴニアへの憧憬を膨らませたブルース・チャトウィンのように、優れた旅行記は旅の目的地を決めるにしても魅力的な挿話を用意しているものだ。2023年の秋、僕がカサブランカ行きのチケットを手配したときにもそんな小粋なエピソードがあればよかったのだが、実際は旅行に行くと決心したものの最終目的地が定まらず、出国の5日前になって慌てて栄のブックオフに駆け込み、旅行本コーナーを物色して決めたのだった。現実とはえてしてそんなものである。

 

 ひとつ言い訳をさせてもらうと、今回は経緯が少々特殊だった。普通は旅行に行くと決めてから休暇を取得するものだが、夏から続けていた転職活動がたまたま上手くいった結果、85連休というとてつもなくデカい休暇が突如発生したのだ。85連休。丸々3か月弱である。しばし途方に暮れたのち、僕は台北行きの片道チケットを購入した。とりあえず台湾に行こう。休暇の過ごし方はそこでのんびりしながら決めればいい。行きたいところが見つかればチケットを取ればいいし、帰りたくなったら帰ればいいのだ。

 

 出国2日前、荷造りを終え生活感のなくなった自室でガイドブックをぱらぱらめくっていると、モロッコというのは割と適当に決めたにしてはなかなか、いやかなりいいチョイスに思えた。アフリカ大陸の北の端、アラブ諸国の中でもヨーロッパとのアクセスがよく、適度に観光地化されていて治安もそれほど悪くない。マラケシュの旧市街で市場の喧騒に身を投じるもよし、アトラス山脈を越え砂漠を旅するもよし。それにも飽きたらジブラルタル海峡を渡ってヨーロッパに行くのもいいだろう。リスボンのレストランで本場のファドを聴く、エディンバラのパブでハギスを食う、どこにだって行けばいい。何せ休みは3か月もあるのだから……。

 

 10月21日早朝、引っ越したばかりのワンルームマンションに段ボールの山を残したまま羽田空港に向かい、エアバスA320に乗り込む。関空を経由し、台湾桃園空港に到着したときには午後3時になっていた。